近年、ヨーロッパでは「持続可能な生産と消費」を実現するための制度整備が急速に進んでいます。
特に注目されているのが、EUの「エコデザイン規制」やフランスの「衣服廃棄禁止法」です。
これらの法律は、製品設計や廃棄段階にまで環境配慮を求める点が特徴であり、単なる「環境対策」ではなく、企業の競争力にも直結する「新しい経済ルール」になりつつあります。
本記事は、EUエコデザイン規制の概要・特徴を詳しく解説します。
エコデザイン規制(ESPR)の概要・特徴

EUは「大量生産・大量廃棄」型の経済から脱却し、資源を長く使う循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換を進めています。
その中心となるのが、2024年7月に施行されたエコデザイン規制(ESPR)です。
この規制は従来の「エコデザイン指令」を拡大し、衣類・家具・建材・電子機器など幅広い製品を対象に、設計段階から環境負荷を減らすことが義務化されました。
例えば製品の再利用・修理・リサイクルのしやすさや再生素材の使用などが新たに求められ、EUはこれを「持続可能な製品の新しい標準」と位置づけています。
ファストファッションへの規制強化
このエコデザイン規制には、特にファストファッションによる環境負荷を減らす狙いがあります。
EUでは、衣類廃棄の増加が深刻な問題となっており、欧州委員会によれば「毎秒トラック1台分の衣類が焼却または埋立て処分」されているとも言われます。
そこで、EU理事会と欧州議会は2023年12月に合意したエコデザイン規制の中で、新たに「売れ残り衣類の廃棄禁止」を盛り込みました。
このルールは2024年7月の施行に続き、以下のスケジュールで段階的に適用されます。
[エコデザイン規制の導入時期]
- 2026年から:大手企業に対して適用開始
- 2030年から:中規模企業にも適用
これにより、企業は販売されなかった新品衣類や靴を焼却・埋立て処分することが禁止され、代わりに「寄付・再販・リサイクル」などの手段を取る義務が生じます。
また、製品設計においても、以下のような要件が義務づけられました。
[エコデザイン規制の主な要件]
- 耐久性の向上
長期間使用できる素材・構造を採用すること
- 修理・再利用の容易さ
分解や部品交換が簡単にできる設計
- リサイクルしやすい素材構成
異素材の組み合わせを減らし、単一素材化を促進
- 再生素材の使用義務化
一定割合以上にリサイクル素材を使用すること
- デジタル製品パスポートの導入
製品ごとに素材・修理方法・排出量などを記録
これらの基準は、「製品ライフサイクル全体」で環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方に基づいて設計されています。
つまり、製造段階だけでなく、使用・廃棄・再資源化まで含めた「循環」を前提にした仕組みへと転換が進んでいるのです。
フランスは世界初の「衣服廃棄禁止法」を施行
EU全体での動きに先行して、フランスは2022年1月に「衣服廃棄禁止法」を施行しました。
この法律は、2020年に制定された「廃棄防止・循環経済法(AGEC法)」の一環として生まれたもので、世界初の取り組みとして注目されています。
フランス政府はこの法律により、次のようなルールを定めています。
[衣服廃棄禁止法のルール]
- 新品の売れ残り衣類を焼却・埋立てで廃棄することを禁止
- 企業に対して寄付・再利用・リサイクルの義務化
- 違反企業には罰金などの行政措置
- 企業にリサイクル可能素材の利用計画提出を義務付け
- 消費者への「製品修理可能性スコア」の表示制度を導入
この制度以降、フランスでは「再販・寄付・素材再利用」が急速に拡大しています。
また、大手ファッションブランドでは、リユースプラットフォーム(例:Veepee、Vestiaire Collective)と連携し、売れ残り商品の再流通を進めています。
また、フランス国内では「繊維リサイクル産業」も急成長しており、雇用創出にもつながる効果が生まれました。
EUとフランスの取り組み比較表
| 年 | 施策・出来事 | 対象 | 出典(要旨) |
| 2020 | フランス:廃棄防止・循環経済法(AGEC)成立 | 生産者・輸入業者・販売業者 | フランス政府(Légifrance) |
| 2022 | フランス:衣服など非食品の売れ残り廃棄禁止施行 | メーカー・小売業者 | フランス環境省公表資料 |
| 2024 | EU:エコデザイン規制(ESPR)発効 | EU全域の製品・事業者 | 欧州委員会(ESPR公式資料) |
| 2026 | 大手企業への段階的適用開始 | ファッション、家電など主要産業 | 欧州委員会 実施計画案 |
| 2030 | 中規模企業への適用開始 | 中堅製造業・販売業 | 同上 |
このようにフランス、EUでは廃棄防止やエコデザインに関する規制を実施していますが、エコデザイン規制は対象地域がEU全域となるなど範囲が広く、品目も衣類以外に広がっていることが分かります。
エコデザイン規制が企業・消費者にもたらす影響

エコデザイン規制は単なる「環境規制」ではなく、企業の競争力を高める機会にもなっています。
具体的なメリットは以下の通りです。
[企業にとってのメリット]
- 再利用・修理・サブスクリプションなど新しいビジネスモデルの創出
- リサイクル素材需要の拡大による新市場形成
- 企業のブランド価値・環境配慮イメージの向上
- 将来的な炭素税・廃棄コスト削減につながる効果
一方で、消費者にとっても次のような変化が期待されます。
[消費者へのメリット]
- 長持ちする製品が増え、買い替えコストの削減
- 修理やアップサイクルが容易になり、廃棄物削減に参加できる
- 製品パスポートにより、環境負荷の「見える化」が進む
このようにEUでは、エコデザイン規制により持続可能な製品の開発・販売を進める企業ほど、長期的に市場で優位に立てると指摘しています。
このため欧州企業では、エコデザイン規制を積極的に導入する事例が増えて来ています。
欧州企業の先進的な取り組み
エコデザイン規制を実践する、欧州企業の事例をご紹介します。
【1】ユニリーバ(イギリス/オランダ)
ユニリーバは、2030年までに再利用・リサイクル可能素材に切り替える方針を発表しました。また、詰め替えステーションも欧州各地に展開することで、消費者が容器を繰り返し使用できる仕組みを整えています。
【2】ネスレ(スイス)
ネスレは再生可能素材を使った紙ベースの包装を導入し、2025年までにすべての包装をリサイクル可能にする目標を掲げています。ヨーロッパの工場ではリサイクルPETを使ったボトルを採用し、CO₂排出量を削減しています。
【3】ダノン(フランス)
ダノンは、飲料容器の100%リサイクル化を目指し、リサイクルプラスチック「rPET」を積極的に導入。フランス国内では自治体と連携し、回収システムの最適化にも取り組んでいます。
今後の展望:日本企業への示唆
エコデザイン規制の影響は、EU域外の企業にも及びます。
この影響は、EU市場に製品を輸出する日本企業も対象となり、今後はエコデザイン要件や製品パスポート対応が求められることになります。
とくに次の分野では、日本企業の対応が急務とされています。
[エコデザイン規制に対応すべき国内企業例]
- ファッション・アパレル業界
- 家電・電子機器メーカー
- 家具・建材メーカー
- 包装資材・プラスチック製品製造業
日本では環境省が「製品環境影響評価(LCA)」や「プラスチック資源循環促進法」を推進していますが、EUのエコデザイン規制はこれを一歩先に進める包括的な制度です。
このため国内企業は、環境対応を「コスト」ではなく「価値」としてとらえることが、今後の国際競争力を左右するポイントとなるでしょう。
まとめ
今回は、EUのエコデザイン規制に学ぶ持続可能な方向性について詳しく解説しました。
エコデザイン規制は、EUが目指す循環型社会の実現に向けた中核的な制度です。
その目的は単に廃棄を減らすことではなく、「資源を長く活かすデザイン」を社会全体に広めることにあります。
フランスのような先行事例が示すように、法規制が新しいビジネスや雇用を生み出す可能性も大きく、「持続可能性」と「経済成長」の両立をめざすモデルとして世界から注目されています。
日本企業にとっても、今後の製品設計・輸出戦略を考える上で、エコデザイン規制への対応は避けて通れない課題となるでしょう。
【参考情報】
欧州委員会:Ecodesign for Sustainable Products Regulation(ESPR)公式資料(2024年7月18日発効)
URL : https://commission.europa.eu/energy-climate-change-environment/
欧州議会・理事会:ESPR最終合意文書(2023年12月)フランス政府公式法令データベース「Légifrance」:Loi anti-gaspillage pour une économie circulaire(AGEC)
URL : https://www.ecologie.gouv.fr/loi-anti-gaspillage-economie-circulaire
フランス環境省(Ministère de la Transition écologique)URL : https://www.ecologie.gouv.fr/
欧州環境庁(EEA):Circular Economy and Product Sustainability Reports(2024)
URL : https://report.zehndergroup.com/sr2024/circular-products-and-innovation

