2025年、ドナルド・トランプ大統領が再び就任し、アメリカの環境政策は大きく転換しました。
一方、日本は脱炭素社会の実現に向けて、独自の取り組みを強化しています。
本記事では、第二期トランプ政権の環境政策と、それに対する日本の対応について、具体的な数値や事例を交えて解説します。
第二期トランプ政権の環境政策

第二期トランプ政権では、バイデン前政権と異なる環境政策を打ち出しています。
パリ協定からの再離脱
トランプ大統領は再び、アメリカをパリ協定から離脱させる大統領令に署名しました。パリ協定は、気候変動の長期的な目標として「産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑える」ことを掲げる国際的な枠組みです。
トランプ氏はこの協定を「アメリカの経済と雇用を損なうもの」として批判し、第一期政権でも一時離脱を実施。
今回は政権初期からの明確な姿勢として、再離脱が打ち出されました。
気候関連法案の停止・見直し
トランプ政権は、バイデン政権が成立させた「インフレ抑制法(IRA)」の一部執行停止を宣言しました。
この法律は、クリーンエネルギーや電気自動車(EV)に対する巨額の投資を柱としていますが、「政府による市場の歪み」や「不公平な補助」として見直し対象とされました。
特に、以下の措置が講じられています
- EV補助金や再エネ支援策の即時停止・評価
- 連邦機関による補助金の再検討
- 関連予算の執行停止命令
インフレ抑制法の全面撤回には議会の承認が必要なため、法的には制約がありますが、大統領権限の範囲内での見直しが進んでいます。
EV普及政策の転換
バイデン政権が掲げた「2030年までに新車販売の50%をEVに」という目標についても、トランプ政権はこれを撤回。
EV普及は「義務化ではなく市場の自由に委ねるべき」との立場をとり、EV政策全体の縮小が進められています。
化石燃料の推進とエネルギー自立
第二期トランプ政権では、「アメリカのエネルギーを解き放つ(Unleash American Energy)」を合言葉に、石油・天然ガス・石炭の生産増加が掲げられています。
具体的には
- 採掘・パイプライン建設の規制緩和
- 公有地での化石燃料開発の促進
- 国内産業保護を理由とした国際環境基準の批判
これにより、短期的なエネルギー価格安定や雇用創出が期待される一方で、脱炭素への逆行という国際的な批判も高まっています。
日本の脱炭素政策と取り組み

一方日本の環境政策は、脱炭素化を目指したさまざまな方針を打ち出しています。
温室効果ガス削減目標の強化
日本政府は、2035年までに2013年比で60%、2040年までに73%の温室効果ガス排出削減を目指す新たな目標を設定しました。
これは、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた中間目標として位置づけられています。
再生可能エネルギーと原子力の活用
エネルギー政策では、2040年までに再生可能エネルギーの電力比率を40〜50%、原子力を20%程度に引き上げる方針が示されています。
これにより、化石燃料への依存を減らし、安定的かつクリーンなエネルギー供給体制の構築を目指しています。
カーボンプライシングの導入
日本は、2026年度から年間10万トン以上のCO₂を排出する企業に対して、排出量取引制度への参加を義務付ける法案を採択しました。
これにより、企業の排出削減努力を促進し、市場メカニズムを活用した効率的な温室効果ガス削減が期待されています。
グリーントランスフォーメーション(GX)基本方針
政府は、今後10年間で官民合わせて約150兆円の投資を行う「GX基本方針」を策定しました。
これには、再生可能エネルギーの導入促進、電動車の普及、水素エネルギーの活用、カーボンリサイクル技術の開発などが含まれています。
国際的な連携と支援
日本の環境への取り組みは、国内以外にもアジア諸国、世界各国との連携や支援が行われています。
アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の設立
2024年12月、日本はアジア諸国とともに「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を設立しました。
この枠組みでは、各国の事情に応じた脱炭素化の道筋を共有し、技術協力や資金支援を通じて、地域全体のカーボンニュートラル実現を目指しています。
グリーン気候基金(GCF)への拠出
さらに日本は、2024年から2027年までの期間に、グリーン気候基金(GCF)への拠出金として1,650億円を拠出することを表明しました。
これは、途上国の気候変動対策を支援するための国際的な資金メカニズムであり、日本の国際的な責任を果たすものと位置づけられています。
国際的影響と日本の今後の課題
アメリカが気候変動対策から一歩引くことで、国際的な温暖化対策の枠組みは不安定になる可能性があります。
特に、先進国による途上国支援が減速すれば、グローバルな排出削減の進捗に影響が出る恐れがあります。
こうした中、日本はアジア地域のリーダーとしての役割が一層重要になります。
AZECやGCFなど、国際的な枠組みを通じて日本が環境政策を進めていく必要があると言えるでしょう。
まとめ
第二期トランプ政権の環境政策は、国際的な気候変動対策の枠組みからの離脱や、国内のクリーンエネルギー支援の見直しなど、後退的な動きが目立ちます。
一方、日本は、温室効果ガス削減目標の強化、再生可能エネルギーと原子力の活用、カーボンプライシングの導入、企業や自治体の取り組み、国際的な連携と支援など、多角的なアプローチで脱炭素社会の実現を目指しています。
これらの取り組みは、国内外の信頼を高め、持続可能な社会の構築に寄与することが期待されます。
アメリカ、日本の環境政策の違いが、両国にどのような影響を及ぼすのか引き続き見守っていきましょう。
【参考文献】
「トランプ新政権の環境・エネルギー政策とどう向き合うか ― 原子力・水素・炭素回収での連携強化、州政府との協力も重要に ―」をわかりやすく解説」
(参照)https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=109876