現在、第二期トランプ政権の政策が世界的に大きな影響を与えています。
とくに環境対策はEUなど欧州各国との方針の違いがはっきり現れて来ました。
本記事は、第二期トランプ政権とEUの関係や、環境政策の違いと見通しについて解説します。
第二期トランプ政権とEUの関係は?

トランプ政権とEUは、現在どのような関係にあるのでしょうか?
まずはそれぞれの政策の違いをご紹介します。
トランプ氏の環境政策:脱炭素よりも経済優先
トランプ氏は再選後、脱炭素化を急ぐよりも、アメリカ国内のエネルギー自給・雇用創出を優先して進めています。
とりわけ石油・ガス・石炭産業の支援に注力し、「クリーンな化石燃料の利用拡大」を掲げました。
現在、環境保護庁(EPA)の役割縮小、メタン排出規制の緩和、大規模インフラ計画への環境評価の簡略化などが実施または検討されています。
また、米エネルギー情報局(EIA)の2023年のデータによると、アメリカは世界第1位の原油生産国であり、化石燃料の増産は短期的な経済成長を促すと言われています。
EUの環境政策:グリーンディールと規制強化
一方、EUは「欧州グリーンディール」を軸に、2050年までの温室効果ガス実質ゼロを目指す野心的な政策を推進しています。
具体的には排出権取引制度(EU ETS)の拡充、再生可能エネルギー導入目標の引き上げ、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入など、法的拘束力を伴う取り組みが進んでいます。
具体的な進展:
- 2030年までに温室効果ガスを1990年比で少なくとも55%削減
- 2024年1月よりCBAMを試行開始(鉄鋼、アルミ、セメント等が対象)
- 新車販売における内燃機関車の販売を2035年に事実上禁止
EUでは環境政策が経済政策の中核となっており、企業には「サステナビリティ報告」や「サプライチェーン上の環境リスク開示」が求められます。
米・EU間の対立と摩擦

トランプ政権が規制緩和路線を進め、EUが環境規制を強化する場合、両者の間で「グリーンルールの非対称性」が際立つことになります。
EUの基準が影響の可能性
たとえば、EUのCBAMでは、輸入製品にもEU基準の炭素コストを課す仕組みが導入されますが、アメリカがこれに同調しなければ、米製品のEU市場での競争力は低下します。
また、鉄鋼やアルミ製品など、エネルギー多消費型の輸出産業が影響を受ける可能性があります。
ESG開示もネックに
さらに、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する投資基準についても、米国が規制を緩めれば、欧州系の投資ファンドとの価値観のずれが生じます。
第一期トランプ政権下でも、ESG開示に否定的な姿勢が見られましたが、第二期ではより一層の規制撤回が進む懸念があります。
国際協調への影響:気候外交の分断
第二期トランプ政権では、G7やCOPなどの場で、積極的な気候リーダーシップを取る姿勢を後退させる傾向があります。
特にアフリカ諸国やアジア新興国への気候資金の拠出を縮小し、EUや日本が孤立する形になれば、国際的な気候合意の実効性が問われるケースも増えて来るでしょう。
環境対策費削減の影響も懸念される
国連環境計画(UNEP)の2023年報告書によれば、世界全体の温暖化対策資金は年平均で5,000億ドル規模だが、目標達成には毎年約4兆ドルが必要とされている。
米国の拠出削減はそのギャップをさらに拡大する恐れがある。
今後は産業界と投資家の舵取りに注目
今後、米国の環境政策が後退した場合、州政府や民間企業が独自に脱炭素を推進する動きは継続する可能性が高いでしょう。
すでに多くの企業は、サプライチェーンの炭素排出削減やRE100(再生可能エネルギー100%目標)に取り組んでいます。
一方、連邦レベルでの規制後退は投資家や国際サプライチェーンに不確実性をもたらし、特にグローバル市場を相手にする企業は「EU基準」と「米国内基準」の二重対応を迫られます。
これにより、中長期的にはEUを基準としたグリーン化が世界標準となる可能性も高まります。
民間主導のグリーントランジション
加えて注目されるのが、「国家主導」ではなく「民間主導」のグリーントランジションです。
米国では、アップルやマイクロソフト、ウォルマートなど多くの大手企業が自主的にカーボンニュートラル目標を設定し、すでに実行段階に入っています。
これにより、連邦レベルで規制が緩和されたとしても、グローバル市場での競争を意識する企業は、EUの厳格な基準に適応せざるを得なくなっています。
また、サステナビリティを重視する投資家や消費者の声が強まる中、短期的な経済成長と長期的なリスク管理のバランスが問われる時代にも入っています。
このように第二期トランプ政権とEUの対照的な政策が、こうした民間の対応にどのような圧力や機会をもたらすのか、今後の動向が注目されます。
まとめ
今回は、第二期トランプ政権とEUの関係や、環境政策の違いと見通しについて解説しました。
第二期トランプ政権とEUの環境政策の方向性は大きく異なり、その差は国際貿易、気候外交、企業戦略にまで波及します。
現在の予測では、短期的には米国の成長志向とエネルギー自立が評価されるかもしれませんが、長期的には規制強化と持続可能性を軸にしたEUのアプローチが、国際社会の信頼を集める可能性が高いといえます。
企業や政府関係者にとっては、今後の政策変動を見据えた柔軟な対応力が求められています。
【参考文献】
「トランプ2.0とEU-促されるのはEUの分裂か結束か?- 」
(参照)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/