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欧州のEV普及が停滞する理由とは?最新の市場動向から解説

欧州自動車工業会(ACEA)の統計では、2023年1-9月期で販売された新車販売台数は前年比16.9%と回復基調にあります。

このうちEVのシェア率は14%と前年から約55%増と好調である一方、普及には停滞感が漂っています。

本記事では、欧州のEV普及が停滞する理由を、最新の市場動向から解説します。

欧州のEV普及が停滞する理由

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ヨーロッパでの自動車販売は、直近では回復傾向にあるもののメーカー各社は慎重な姿勢を示しています。

欧州のEV普及が停滞する理由がいくつかありますので、ご紹介します。

VWはEV戦略を見直し

ドイツ最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)社のEV戦略が見直しを発表しました。

  • 中東欧バッテリー工場の建設延期

VWは2030年を目処に6カ所のバッテリー工場をヨーロッパ域内で増やす計画を立てています。

しかし欧州でのEV需要が予想を下回ることから、中東欧での工場建設を延期することを決めたようです。

  • EVの相次ぐ減産を発表

2023年の9月以降、VWはザクセン州の工場でEVを減産するほか、一部工場で雇用の見直し、整理を進めるなど「EV需要の想定を下回る需要に合わせた調整を行っています。

このように欧州の自動車メーカーではVWなど大手を中心にEV需要の伸び悩みによる減産、見直しを進める動きが始まっています。

何故、メーカーの予想を下回るほど普及が停滞しているのでしょうか?

政策によるEVの不安要素

EVの普及が伸び悩む理由のひとつに、政府によるインセンティブの廃止によるものがあります。

従来、EU各国の政府はEV・PHVの購入時に補助金の給付や税制優遇を図るなど新規ユーザー獲得の施策を行ってきました。

しかしこうしたインセンティブ制度が、財政再建を理由に段階的に廃止されたため、実質的な値上げ状態に入ったことが需要の縮小に繋がっています。

またEVの車両価格は、従来のガソリン・ディーゼル車と比べ高い傾向があるほか、欧州中銀がインフレ対策として金利を引き上げたこともありローン金利も高くなりました。

このため購入時の負担が増えたため、今後需要が少なくなる可能性が高いと言われています。

インフラ整備にも課題

また、EVが普及する際に必要な「充電スタンド」もまだまだ不足している状況が続いています。

例えばEV先進国のひとつドイツでは、2023年8月時点で約10万4000基でした。

同年上半期でおよそ1万3000基増えたものの、急速充電スタンドは約2万基ほどと少なく、EV普及の不安要素となっています。

世界的にもEV普及が先進的なドイツでさえこの状況であることを考えると、より所得が低い東欧や南欧諸国ではEV普及が更に遅れる可能性は高いと言えます。

このようにEV普及を全力で進めるEUですが、インフラ設備にも課題が多い状況となっています。

生産コスト高も普及の足枷に

EVは従来のガソリン・ディーゼル車などの内燃機関車と比べ価格が高いことが普及の足枷となっている現状があります。

このため欧州でEV普及を狙うためには、低価格EVの開発、投入が必要と言われています。

しかしEVの主要なパーツであるバッテリー自体が高価なことから、ヨーロッパの自動車メーカーではEVの低価格化、供給が難しい状況が続いています。

低価格でシェア拡大を狙う中国

最近、欧州の新車市場では「中国製EV」の注目度が高まっています。

ACEAの調査では、2023年に欧州の新車登録で中国製の占める割合は3.7%と前年と比べ2%上昇しました。

一方で全ての新車登録に占める中国製の割合は、2022年に1.3%、前年比較で0.9%であることからもEVシェアにおける中国製の割合は今後も高まることが予想されます。

欧州経済と域内産業を保護する難しさ

環境対策の観点から考えれば、EV普及を目指すEUは販売価格の安い中国製を歓迎すべき状況と言えます。

しかしEVの普及には「欧州域内での自動車産業を保護」する役割もEUは担っています。

このため欧州でのEV普及には「域内産業の保護と経済保障」と併せて、中国依存を軽減したい思惑が表れています。

しかし中国製のシェアを減らし、域内メーカーを保護しながら全体のシェアを伸ばす効果的な施策は今のところ少ないため、EUの意向通りに市場が進むかは、限定的と言えるでしょう。

2024年のEV市場動向を注目

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2023年までの欧州EV市場は、世界的に見ても順調にシェア拡大路線を進んで来たと言えるでしょう。

しかし直近の課題として、インセンティブ制度の縮小、充電スタンドの整備不足、市場価格が下がらない状況が続いてしまうと、EVの順調な普及が危ぶまれる状況であることが理解できます。

また、欧州市場でのEV普及には、中古車市場も伸びる必要があります。

しかしEVを中古車で販売する際に起こる、バッテリー交換など技術的な課題も多く、現状の見通しは難しい状況でもあります。

このようにEV普及には新車市場の拡大と中古車市場の開拓という2つの目標達成が急務となるものの、EUは明確なビジョンを示せていない現状があります。

まとめ

今回は、欧州のEV普及が停滞する理由を、最新の市場動向から解説しました。

欧州でのEV普及は、さまざまな懸念要素から停滞する可能性が高いことをご紹介しました。

欧州グリーンディールを始めとした環境対策の観点からも、EV市場の健全なシェア拡大が求められています。

2024年度以降、EUが懸念する不安要素を軽減し、EV市場を拡大できるかという疑問について、引き続き見守っていきましょう。

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