欧州では現在、再生可能エネルギー促進により原子力発電の維持、運営が厳しい状況に陥っています。
原発推進を掲げる一部の国々が残る一方、各国の原発政策での課題が浮き彫りになっています。
本記事は欧州の原子力発電の現状や再生エネルギーに向けた課題を解説します。
欧州の原子力発電の現状は?

脱炭素化を目指す世界各国に於いて、化石燃料に依存しない電力政策が求められています。
フランス・ドイツ・スペイン・英国など欧州の一部国々では原発を電力政策の中心に据えている一方、再生可能なエネルギーのシフトチェンジや電力価格が不安定なこともあり、原発運営に支障が出始めています。
欧州の原発を取り巻く状況
欧州の電力消費はエネルギー危機以降、需要が回復しないことや風力・太陽光発電の発電量が増加しているため、原子力や石炭、火力など従来の発電方法のシェアは下がり続けているのです。
このため現在の電力価格が続く限り、従来型の原発運営は厳しいと言われています。
フランスが抱える原発問題
フランスの2022年原子力による発電量は2005年の最高値430TWhから35%少ない279TWhに留まりました。
この発電量の低下は、次の3つの要因が関係しています。
1.発電施設の大改修によるもの
現在フランスで稼働している56基の原子炉が平均38年経過しているため、安全性を高め運用機関を伸ばす目的で改修を行っているため、一的期間稼働率は低下しています。
2.パンデミックの影響
2020年以降に発生したパンデミックにより、原子炉のメンテナンスに遅れが生じてしまいました。
3.設備の老朽化による修繕作業
2021年には緊急冷却システムなど複数の設備が老朽化による欠陥が見つかり、検査や修繕により一時停止する事態が発生。
原子力発電施設は運転期間延長のため、10年ごとに認可を受ける必要がIAEA(国際原子力機関)より推奨されています。
さらにフランスでは現在建設中の原子炉が10年以上も遅延するなど発電量の低下に加え、莫大なコスト超過(110億ユーロ以上)に陥っています。
このような背景から、フランスでは現在2050年の期限までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げ、自然エネルギーを推進する一方で、原子力を据え置きにする方針を固めています。
ドイツは原子力発電をフェーズアウトに

ドイツでは2022年ロシアのウクライナ侵攻以降に広がったエネルギー供給への懸念から、翌2023年に廃止(フェーズアウト)しました。
また、原子力発電の廃止に加え火力発電も2022年にはおよそ30%削減(2010年比)にも成功。
原子力や火力で削減した電力は風力、太陽光など再生可能エネルギーによる電力供給を拡大しました。
電力輸出も積極的に実施
国内の電力供給はもとより、電力輸出もドイツは積極的に実施。
2022年には27TWhもの大量の電力を輸出し、近隣のフランスなど電力が不足する国々に供給するなどエネルギー問題解決に向けた取組みを続けています。
その他欧州諸国の原発事情について
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その他の欧州諸国の原発事情として、スペインではアスコ原発1号機・2号機の出力をおよそ5週間に渡り下げるなど電力取引価格は低い水準で推移しています。
また、北欧に於いても原発の出力低下はより頻繁に実施されるなど電力価格の低下により原発稼働はより厳しいものとなっています。
原発再稼働には細心の注意が必要
このように欧州では電力需要の低下に伴い、原発の発電量を低下させる状況となっています。
原子炉は発電力をコントロールできるようある程度柔軟に設計されている一方で運転を完全に停止させた場合、再稼働は難しい側面もあります。
運転再開が難しい理由として再稼働のプロセスが複雑で、長い試用期間を必要とするなど時間がかかるためです。
再生可能エネルギーの需要は増大
EU内で2022年に増加した風力発電量は、過去最高の電力値を記録。
また、太陽光発電の発電量は3年連続で40%以上となるなどEU全体では再生エネルギーによる発電量は増加しています。
欧州原発の今後の見通しについて
このように欧州の原子力発電を中核に据える国々が残る一方、風力や太陽光発電など再生可能エネルギーにシフトが進んでいることから発電量の減少やメンテナンスなどコスト増による需要低下が現れています。
しかし電力需要の減少から原子炉を停止、廃炉にする場合、プロセスも複雑で莫大なコストが発生するため、現状ではフランスのように修繕や点検を重ね運転を延長するケースも増えています。
再生可能エネルギーにシフトしつつある電力事情は、今後原子力発電の必要性を再構築すべき状況にあると言えるのではないでしょうか?
まとめ
今回は、欧州の原子力発電の現状や再生エネルギーに向けた課題を解説しました。
欧州の原子力発電の現状では、原発推進国であるフランスや再生エネルギーにシフトが進むドイツなどそれぞれ現状が異なることをお伝えしました。
2020年のパンデミックや2022年のウクライナ紛争以降、欧州ではエネルギー危機による原発継続の審議が続いています。
このように欧州の原子力発電を取り巻く状況は、今後より一層厳しくなる見通しと言えるでしょう。
【参考文献】
欧州で原発の運転停止相次ぐ、再生可能エネルギー急増で需要低下 「https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-09/SBO2AVT0AFB400」(参照)
日本政府が伝えない、欧州の原子力発電の現実「https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20230404.php」(参照)