環境政策が急速に進展する欧州において、プラスチック使用に関する規制強化が新たなフェーズに突入しようとしています。
2025年からEU(欧州連合)では、環境負荷の少ないバイオベース・代替プラスチックに対する優遇措置が本格的に導入される見通しです。
本記事は、その優遇措置の内容、影響を受ける産業、そして今後の市場動向について解説します。
バイオベースプラスチックとは?

バイオベースプラスチックは、トウモロコシやサトウキビ、廃棄された植物油など、再生可能な植物資源を原料とするプラスチックのことです。
見た目や性能は従来のプラスチックと似ていますが、原料が植物であるため、石油資源の使用削減や温室効果ガス排出の低減に貢献できると期待されています。
なお、バイオベースだからといって必ずしも生分解(自然に分解)されるわけではありません。
バイオベースかつ生分解性のある素材もありますが、それぞれの特性は異なるため、用途や回収体制に応じた活用が求められます。
なぜ今、バイオベースが注目されるのか?
EUではこれまで、プラスチックの使用削減やリサイクルの強化が進められてきました。
しかし、代替素材への転換には技術的・経済的な壁があり、なかなか主流になっていませんでした。
そうした中、以下のような理由で「バイオベース素材」が改めて注目されています。
【バイオベース素材再注目のポイント】
- 化石資源への依存を減らす必要性の高まり
- カーボンフットプリント(CO₂排出量)の見える化と規制強化
- 再生材やリサイクル材だけでは供給が足りない現実
- グリーン成長を促す産業政策の一環としての支援策
特に、サーキュラーエコノミー政策の一環として、バイオ由来の素材が循環型社会に貢献すると位置づけられ、EUが本格的な後押しに乗り出しました。
2025年EUのバイオベース優遇措置
2025年からEUでは、以下のような「バイオベース代替プラスチック」に対する優遇措置が実施されています。
1.製品設計時のインセンティブ付与
バイオベース素材を使用した製品に対し、「エコデザイン規制」において高い環境評価が与えられます。
これは、製品がリサイクル可能であることや再生可能資源を活用していることが、設計段階での評価基準として正式に加味されるというものです。
これにより、バイオベース素材の活用が「設計上の有利さ」につながるため、メーカーは採用しやすくなっています。
2.税制優遇と補助金の導入
バイオベースプラスチックを製造・使用する企業に対して、以下のような経済的支援策が整備されました
【バイオプラスチックの支援策】
- 環境にやさしい素材への付加価値税(VAT)の軽減
- 研究開発や製造設備へのEU補助金の優先配分
- サステナブル包装に対する投資減税の拡大
これにより、バイオ素材の導入コストが従来よりも抑えられるようになり、中小企業にも導入のハードルが下がっています。
3.認証制度とグリーンラベルの整備
2025年からは「バイオベース含有率」の表示が義務化され、製品にどの程度植物由来の素材が使われているかが明記されるようになりました。
あわせて、一定基準を満たした製品には「EUバイオマテリアル認証ラベル」が付与されます。
このラベルにより、消費者が環境に配慮した製品を選びやすくなるとともに、企業にとってもブランド価値の向上が期待できます。
4.公共調達における優先採用
EU各国の政府機関や自治体は、バイオベース素材を使用した製品を公共調達(オフィス用品、包装材など)で優先的に採用するよう義務づけられました。
これにより、企業側も安定した需要が見込めるようになり、供給体制の強化にもつながっています。
どんな製品に使われているのか?
2025年現在、バイオベース素材は以下のような分野で活用が進んでいます。
- 食品容器・包装材:PLA(ポリ乳酸)やバガス(サトウキビの搾りかす)を使った容器や袋
- 飲料ボトル:植物由来のPETやPEを使用した再利用可能なボトル
- 農業用フィルム:分解性の高い生分解性バイオプラが中心
- 日用品:歯ブラシの柄やカトラリーなどに木材・竹・トウモロコシ由来の素材を使用
このように企業によっては、製品の一部だけをバイオ素材に切り替え、段階的に導入を進めているところも増えています。
企業と消費者への影響
【企業にとってのメリット】
- グリーン製品としてのブランド価値向上
- 税制優遇・補助金によるコスト低減
- 公共調達やグリーンラベルによる販路拡大
一方で、素材の価格変動や供給量、技術的な対応(加工性や耐久性)にはまだ課題もあります。
【消費者にとっての変化】
- 「どの素材を選ぶか」が消費行動の一部に
- ラベルや情報表示で環境配慮型商品が選びやすくなる
- リサイクルルールや分別方法への理解が求められる
つまり、企業と消費者の両方が「素材を選ぶ時代」に入ったと言えるでしょう。
今後の展望と課題

EUは2030年に向け、包装材のうち全体の20%以上を再利用可能・再生可能素材に転換するという目標を掲げています。
バイオベース素材はその柱の一つとされ、以下のような動きが期待されています。
- バイオ素材の高機能化と低コスト化
- バイオ由来でかつリサイクル可能な新素材の開発
- 国際標準化(ISOなど)によるグローバル展開支援
ただし、農地利用との競合や、森林破壊を招かないような「持続可能な原料調達」が必須です。
また、単に「植物由来」であれば良いというわけではなく、「どこで、どのように作られたか」が問われる時代になってきています。
まとめ
2025年の欧州では、バイオベース代替プラスチックが脱炭素・脱石油社会への重要なステップとして本格的に推進されています。
税制や公共調達、設計指針、ラベル表示といった多面的な優遇措置により、企業の導入が進み、消費者の選択肢も広がっています。
今後は、「環境配慮」が一時的なトレンドではなく、経済やライフスタイルの基本に組み込まれていくことでしょう。
日本をはじめ、世界中の企業にとっても、欧州の取り組みは注視すべきヒントになるはずです。
【参考文献】
「欧州委、バイオベースなど代替プラスチックに関する政策枠組み発表」
(参照)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/